製造業を取り巻く環境は、変動するエネルギーコストや、ますます厳格化する環境規制など、さまざまな課題に直面しています。こうした中、今日の製造現場に求められる問いは、もはや「いつ新しいテクノロジーへの投資を承認するのか?」だけではありません。むしろ重要なのは、**「日々の生産活動の中で、私たちは気づかないうちに、どれだけのエネルギーを無駄にし、不要なCO₂を排出しているのか?」**という視点です。
必要以上に長く続けられる機械のウォームアップ、圧縮空気システムのわずかなエア漏れ、あるいは作業エリアの空調温度を必要以上に低く設定すること。こうした行為は、日常業務の中では小さな問題として見過ごされがちです。しかし、数百台もの設備を稼働する工場で、それが365日繰り返されれば、一つひとつの小さなロスが積み重なり、やがて大きなEnergy Lossとなります。そして、企業の利益を徐々に圧迫すると同時に、サステナビリティ目標の達成を妨げる要因にもなります。
MEGA Techは今回、Siam Asahi Manufacturing Co., Ltd.のLeader Production、Akhom Kutan氏にお話を伺いました。Akom氏は、Sumipol Institute of Manufacturing Technology(SIMTEC)が実施する「GREEN TRANSFORMATION for Next-Generation Factory Leaders」を受講した、生産現場の第一線で活躍するプロフェッショナルです。今回のインタビューから見えてきたのは、工場をグリーン産業へと転換するために最も重要なのは、必ずしも大規模な設備投資から始めることではないということです。その第一歩は、生産現場で働く人々のMindsetを変え、「Loss」を新たな視点から捉え、生産・エネルギー・カーボンを一つのつながりとして認識することにあります。

Siam Asahi Manufacturing Co., Ltd.
隠れたLossを「測定可能なデータ」へ From SEEN to LEAN
生産現場に直接携わる人にとって、今回の学びの中で特に大きな意識変化につながったのが、SEENとLEANを体系的に結び付けて考えることでした。
従来、生産工程におけるロスは、現場での「慣れ」や経験則によって判断されることが少なくありませんでした。例えば、「事前に機械を稼働させておいても、それほど大きな影響はないだろう」と考えてしまうケースです。しかし、Industrial IoTやセンサー技術を活用し、**Process & Energy Visibility(SEEN)**を実現することで、これまで疑問を持たれることのなかった現場の行動を、エネルギー使用量やコストとして数値化し、リアルタイムで把握できるようになります。
「SEENによって、これまで見落とされていた問題を明確に可視化できます。Dataを通して問題を捉え、その真の原因を特定できれば、次にLEANの考え方を活用し、生産ラインの無駄を的確に削減することができます。」

Lossを「見える化」することにより、従来のように単に従業員へ省エネルギーへの協力を呼びかける活動から、数値に基づいたコスト管理KPIへと進化させることができます。これにより、現場の担当者自身が日々の業務の中で状況を把握し、分析し、具体的な改善活動へつなげることが可能になります。
Energy Lossを攻略する 投資を考える前にIdle LossとOver Supplyを見直す
SIMTECの実践的なワークショップを通じて、Akom氏は、生産現場に潜みやすい代表的なEnergy Lossとして、主に次の2つを挙げています。
1. Idle Loss:
機械が停止中、あるいは待機状態にあり、実際には製品を生産していないにもかかわらず供給・消費されているエネルギーのロスです。
2. Over Supply Loss:
工程が実際に必要とする量を超えて、資源やエネルギーを過剰に供給することで発生するロスです。例えば、作業エリアの適正管理温度が25°Cであるにもかかわらず、空調を20°Cに設定している場合、余分に消費されるエネルギーは製品品質の向上にはつながらず、企業が負担する付加価値を生まない隠れたコストとなります。
ここから得られる重要な視点は、**「新しい機械や高額な省エネルギーシステムへの投資を申請する前に、まず現在保有している設備や資源が、本当に最大限効率よく活用されているかを見直してみるべきではないか?」**ということです。
Process Optimization(工程最適化)やIdle Lossの削減は、大きな追加投資を行わなくても、すぐに成果につながるQuick Winを生み出す有効なアプローチとなります。

「思考のSoftware」をアップデートし、Hardwareのポテンシャルを最大限に引き出す
環境面において、Siam Asahi Manufacturingは過去2~3年にわたり、温室効果ガス排出量の削減に継続的に取り組んできました。Solar Rooftopの導入や高効率設備への更新など、さまざまな施策を進めています。しかしAkom氏は、こうした取り組みと並行して、最も重要な「歯車」として強化していかなければならないものが、従業員一人ひとりのMindsetだと考えています。
Ahkom氏にとって今回の研修は、単に「生産現場を見る視点」を変えただけではありません。日常生活における考え方や行動そのものにも変化をもたらしました。
例えば、スーパーマーケットで商品を選ぶ場面を考えてみましょう。これまでは価格、内容量、コストパフォーマンスだけを基準に商品を選んでいたかもしれません。しかし、Carbon Footprintについて理解することで、商品の見方そのものが変わります。パッケージに表示されているCarbon Labelや温室効果ガス削減に関する環境ラベルにも、自然と目が向くようになります。

日常生活の中で環境に配慮した商品を選ぶことは、決して難しいことではありません。次のようなシンプルな考え方から始めることができます。
- Carbon Footprintの小さい商品を選ぶ(CFPが低い商品):
品質や価格がほぼ同等の飲料が2種類ある場合、表示されている温室効果ガス排出量がより少ない商品を選ぶことで、その製造・輸送過程における環境負荷がより小さい商品を支持することにつながります。 - 環境への取り組みを重視する企業を支持する(CFO):
明確なカーボン削減方針を持つブランドや企業の商品を選択することは、私たち自身の「購買力」を通じて、企業の持続可能な事業活動を後押しする一票を投じることでもあります。 - 包装と輸送まで含めて考える:
リサイクル可能な包装材を使用した商品を選ぶほか、地域で生産されたLocal Productsを選択することで、輸送距離を短縮し、輸送に必要なエネルギーの削減にもつなげることができます。
**「工場においてカーボンがどのように算定されているのかを理解すると、日常生活で購入する一つひとつの商品に含まれる『見えないカーボン』にも気づくようになります。省エネルギーは、退勤の打刻をした瞬間に終わるものではありません。環境に配慮した商品を日々選択するという、私たち自身のライフスタイルへと変わっていくのです。」**とAhkom氏は強調します。

成功への方程式 Bottom-upとTop-downがつながるとき
自身の知識レベルについて振り返ると、Akhom氏は今回の研修を通じて、理解度がほぼ0%から50%程度まで高まったと評価しています。そして、「残りの50%」は、得られた知識を組織の仕組みの中で、実際の行動へと落とし込んでいく部分にあると考えています。
現場レベル(Bottom-up):
SEEN & LEANに関する知識と実践力を身につけ、自らの現場をスキャンし、Lossを発見・特定し、それを実際に削減・排除していく役割が求められます。
経営・管理レベル(Top-down):
GREEN & CLEANへの理解を深め、全体像だけでなく、経済合理性、支援制度、関連法規などを総合的に把握することで、投資を必要とするプロジェクトについて適切な判断と承認を行うことが求められます。
現場が改善の可能性を発見しても、経営層がその価値を理解できなければ、省エネルギープロジェクトは提案書の中だけで終わってしまうかもしれません。一方、経営層がカーボン削減目標を掲げても、現場が具体的な実行方法を理解できなければ、本当の意味での変革は実現できません。
したがって、Green Transformationを成功させるためには、生産現場と経営会議の場をつなぐ「共通言語」を組織全体で構築することが不可欠です。

EXCLUSIVE TAKEAWAY | 経営者へのメッセージ
「Green Transformationの核心は、Hardwareではありません。
それを動かす『Human Mindset』の力にあります。生産現場で働く一人ひとりが、これまで見えなかったあらゆる無駄に気づくことができれば、環境への取り組みは、単に守らなければならない『ルール』ではなくなります。それは、誰もが日々自ら選択し、実践する『ライフスタイル』へと変わっていきます。そして、それこそが未来の組織を形づくるDNAなのです。」
Akom Kutan氏
Leader Production
Siam Asahi Manufacturing Co., Ltd.

