「次に、工場へどんなテクノロジーを導入すべきか?」と考える前に、少し立ち止まって、今日の現場を見つめ直してみたい。私たちは本当に、工場が毎分、どこでエネルギーや効率、そして貴重な資源を失っているのかを把握できているだろうか。
環境意識の高まりと、温室効果ガス排出量を実質ゼロにする**Net Zero(ネットゼロ)への世界的な潮流を背景に、製造業にはGreen Transformation(GX)**への対応がこれまで以上に求められている。
多くの工場リーダーにとって、GXへの取り組みは、大規模な投資から始まるものというイメージがあるかもしれない。高額な新技術の導入、次世代型の設備への更新、あるいは既存の工程を置き換える高度な自動化システムなどだ。
しかし、本当に持続可能なグリーン・トランスフォーメーションは、必ずしも**「新しいテクノロジー」から始まるとは限らない。**
むしろその第一歩は、今ある仕事の仕組みや現場のプロセスの中に潜んでいる、「見えないロス」を見つけ出すことなのかもしれない。
今回、MEGA Techでは、Siam Denso Manufacturing Co., Ltd.のMaintenance Facility Team LeaderであるNirut Kantuk氏にお話を伺った。同氏には、製造現場におけるGXへの考え方や実体験、そして、SIMTECが主催する実践型プログラム GREEN TRANSFORMATION for Next-Generation Factory Leaders への参加を通じて生まれた、意識と視点の変化について語っていただいた。その経験から見えてくるのは、これからの製造業リーダーにとって重要な一つの視点だ。「次に何を導入するか」を考える前に、まず「今、何を失っているのか」を知ること。

マインドセットの変革(Mindset Transformation)
- 従来の考え方: Technology(テクノロジーを導入する)→ Investment(大規模な投資を行う)→ Result(成果を期待する)
- 新しい考え方(SIMTEC Model): Visibility(可視化する)→ Measurement(測定する)→ Analysis(分析する)→ Improvement(改善する)→ Technology(目的・課題に即したテクノロジーを適用する)
「省エネが必要だと分かっている」から「現場で実践できる思考プロセス」へ
Siam Densoにとって、エネルギー管理は決して新しい取り組みではない。同社ではこれまでも、Green Energyへの取り組みや**Carbon Footprint for Organization(CFO)**の算定を継続的に実施してきた。また、Nirut氏自身も、工場内の設備・機械やファシリティの保全を担う業務に携わっている。
そのため、Siam Densoがさらに求めていたのは、単に「カーボンを削減しなければならない」「エネルギーを節約しなければならない」という方針・目標レベルの取り組みだけではなかった。
重要だったのは、組織の目標を、工場の現場で具体的な行動へとどのように落とし込むかということである。
「私たちが現在管理している設備について、どのような方法や計算原理を使えば、どこからエネルギー効率を取り戻せるのかを正確に把握できるのか。SIMTECで学んだことによって、これまでのプロセスに不足していた技術的な部分を、的確に補うことができました」とNirut氏は強調する。
今回の学びの中心となったのが、Energy Calculation & DiagnosisのWorkshopである。

このWorkshopでは、単に決められた公式を学ぶだけではない。**「エンジニアリング思考のプロセス」**を身につけることを重視している。
具体的には、どのようなデータを収集すべきか、どのポイントで測定を行うのか、どのような計測機器を使用するのか、そして、その影響を数値としてどのように算出するのか――といった一連の考え方を学ぶ。
さらに、ロスが発見された後には、どのように改善・対策を行えば、最も的確かつ費用対効果の高い改善につなげられるのかまで考えていく。
- LEAN Integration: Lean Manufacturingとエネルギー管理を、Waste & Loss、Energy Efficiency、Electricity Cost Calculation、Energy Flow Diagramといったテーマを通じて結び付ける。
- Practical Diagnosis: 実際のプロセスをベースとしたケーススタディやシミュレーションを通じて、CNC Optimization、Energy per Unit Calculation、Air Leakage Diagnosisなどを実践的に掘り下げる。

知識を50%から90%へ――リアルなシミュレーション環境で実践することの力
その効果が特に分かりやすく表れた事例の一つが、**Air Leakage(エア漏れ)**の管理である。これは、あらゆる産業に共通する典型的な課題の一つだ。Siam Densoでは、もともとこの問題について検査・管理する取り組みを行っていたが、今回のトレーニングによって、それをより体系的なエンジニアリングの仕組みとして捉えるための視点が補完された。
「受講前に自分自身の知識や理解度を評価するとすれば、50%程度だったと思います。しかし、理論と集中的なWorkshopでの学習を終えた今では、知識は90%まで高まったと自信を持って言えます。残りの10%は、実際に現場で実践するために意図的に残しています。実際に取り組んでみることで、自分たちの工場特有の課題や制約が見えてくるからです。」
工場ごとに環境条件や生産プロセスは異なるため、メンテナンスチームですぐに解決できる問題もあれば、外部の専門家によるサポートが必要となる問題もある。
例えば、空調システムのエネルギー使用量を削減したい場合、単に**「どうすれば省エネできるのか」**と考えるだけでは十分ではない。
どの数値を測定すべきなのか、どのような計測機器を使用するのか、どこで測定するのか、そして、エネルギー使用量を実際に追跡・分析できるように、どのようなDashboardを設計すべきなのかまで考える必要がある。
こうした領域においても、SIMTECが継続的なサポートを行い、取り組みをさらに発展させていくことが期待される。
SIMTECでの学習環境の大きな特徴の一つが、Learning Factoryである。実際の産業工場を想定した環境の中に、機械設備、計測機器、そしてインテリジェントな制御システムが備えられている。
これにより、受講者は実際に数値を測定し、結果を分析し、シミュレーション環境の中で問題解決の計画を立てることができる。そして、そこで得た知識や経験を、自社工場へすぐに応用することが可能となる。
SEEN → LEAN → GREEN → CLEANを読み解く――持続可能性へ導く4つのステップ

学習したテーマの中で特に印象に残ったものについて尋ねると、Nirut氏は特定の日を一つだけ選ぶことはなかった。むしろ、コース全体を通じた各テーマのつながりこそが印象的だったという。
「毎日が印象的でした。なぜなら、それぞれの日、それぞれのコースが重要で、すべてがつながっているからです。初日から、まず『どのように見るのか』『どのように計算するのか』『そして、どのように活用するのか』というところから始まりました。」
コース全体を俯瞰すると、SEENはデータと問題を「見える化」することから始まる。LEANでは、そのデータを分析し、WasteとEnergy Lossの削減につなげる。GREENでは、エネルギーと生産プロセスをCarbon Footprintの管理へと結び付け、CFO(Carbon Footprint for Organization)とCFP(Carbon Footprint of Product)の両方を扱う。そしてCLEANでは、これらすべての知識をさらに発展させ、GX Project、Carbon Reduction Planning、Roadmap、Action Planへとつなげ、実際に組織へ適用できる形にしていく。
つまり、受講者が得るのは、4つのテーマに分かれた個別の知識ではない。
それは一つの連続したプロセスである。
問題を見つける → ロスを理解する → 影響を測定する → 変革を計画する
さらに、専門知識を持つ講師陣による分かりやすい指導も、重要な要素の一つだった。
IoT、Lean、Energy Management、CFO、CFPといった複雑な技術・専門テーマを、理解しやすく、すぐに考えを追うことができ、実際の行動へ移せる内容として伝えていた。
Nirut氏は次のように語る。
「講師の皆さんには、本当に敬意を表したいと思います。特に印象に残ったのは、コミュニケーションの方法です。深い技術的な内容を、私たちが理解しやすい形に変換して説明してくださり、講師の考え方を自然に追いながら理解することができました。」

Green Transformationは環境部門だけの責任ではない――すべての人の使命である
Nirut氏が今回の学びを通じて得たもう一つの重要な視点は、Green Transformationは、EnvironmentやEnergyの担当部門だけの仕事だと捉えていては、持続的な変革にはつながらないということである。
機械設備から生じるロスはProduction部門と関係し、Processの改善にはEngineeringが関わる。品質についてはQCが担い、EnergyやCarbonに関するデータについては、組織内のさまざまな部門からの情報が必要となる。
「工場の現場や、それに関連するシステムに携わっている皆さんに、このコースへの参加をぜひお勧めしたいと思います。SEEN – LEAN – GREEN – CLEANという考え方を正しく分析し、実際の業務に活かしていただければと思います。」
Nirut氏はさらに、変革は一つの部門だけで実現できるものではなく、工場全体の協力が必要だと強調する。
Production、QCをはじめとする関連部門が連携して取り組むことが重要であり、Environment部門だけに任せるものではない。
なぜなら、Green Transformationとは、単にCarbonを削減することだけを意味するのではない。
組織全体で共通の考え方を持ち、すべての部門が同じデータから同じ問題を見つめ、そこにあるロスを理解し、改善の機会を共に見つけていくこと。それこそが、Green Transformationの本質である。
全員が同じ全体像を共有できたとき、変革は単なる**「環境プロジェクト」**ではなく、日々の仕事そのものの一部へと変わっていく。
真のサステナビリティは、最先端のテクノロジーから始まるとは限らない。組織全体の人々が同じ問題を見つめ、共に変えていこうと行動することから始まるのである。

経営層へのメッセージ(Executive Takeaway)
真のGreen Transformationへの取り組みは、新しいテクノロジーにどれだけの予算を投じたかで測るものではない。
その本当の価値は、**「現場に潜むロスを見つけ出し、取り除く力」**にある。
「次に何を導入するべきか?」と問うのではなく、
「私たちは今日、何を失っているのかを本当に把握できているだろうか?」
と問い直すこと。
それこそが、未来の製造工場への本当のスタート地点なのである。
Mr. Nirut Kantuk, Team Leader, Maintenance Facility, Siam Denso Manufacturing Co., Ltd.
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